契約書の解除と翻訳

投稿者: | 2016年6月10日

無効、取消、解除、解約の英語

契約にはいろいろな終了の仕方があるのですが、その終了の仕方それぞれに日本語の用語が違うので、それに対応した英語の翻訳はなかなかやっかいで難しい。

一番ハッピーな終了の仕方は、契約の満了。これは、英語では最も一般的にはexpireといいます。
ほとんどの契約書には、この契約の満了の他に、契約両当事者の合意、又は一方の当事者の任意の都合で、他方の当事者に一定の猶予期間を設けて事前の通知をすることによって、契約を満了前に終了させる「解約」の規定があることが多い。解約は英語では、terminate。
また、一方の当事者に契約違反などがある場合は、違反をされた当事者は催告(催告は英語では、peremptory notice, demand, notificationなどが使われます)などをして(あるいは催告なしに)一方的に契約を終了することができるのが普通で、これは契約の解除といい、解除は英語ではcancel。

一方、契約は契約の要件を満たさない場合、契約は無効、ということになり英語では(形容詞)null and void。(無効というのは通常すでにそういう状態なので、形容詞にしています。)invalidということもあります。無効にする、という動詞ならnullify。取り消しは、rescission。取り消す(動詞)の英語はrescind。

なお、無効と取消の意味の違いは微妙なのですが、無効というのは契約が最初から効果を持っていないという状態で、取消というのは、とりあえず契約は成立しているのですが、取り消すことによって、契約成立時にさかのぼって契約を無効にすることをいいます。少し分かりにくいので、極端な例で説明すると、例えば、星を1000万円で売る、という契約についていうと、星は所有権を得ること自体ができないので不可能な目的物の譲渡で契約の要件を満たしていません。このような契約は無効です。一方、成年被後見人(adult ward)など行為無能力者(昔はこう読んでいましたが現在では時代の流れで正しくは制限行為能力者という呼び方になっています。制限行為能力者=person with limited capacity)がした財産の譲渡契約などは、あとで取消ができます。無効との違いは、こういう契約書は取消をしない限り有効で、追認などすることにより積極的に有効であることを確認することもできます。

これらの概念はそれぞれ似かよっているので、はっきり区別しない、または混乱した用語で使われることもあるので注意が必要です。用語そのものが何が使われているか、ということよりもその用語がどういう意味で使われているか、という観点から英語の訳語を選択すべきです。例えば、解除、と書かれていても、解約の意味のことがあり、また取消の意味で使われている可能性もあり、その場合それぞれの「意味」に対応する英語に翻訳すべきです。

無効= null and void (動詞で「無効にする」ならnullify)
取り消す= rescind
満了する= expire
解約する= terminate
解除する= cancel
契約書=agreementまたはcontract

永江俊一
契約書の翻訳翻訳のサムライ