物権の翻訳、英語訳、real rights
僕の所属するある翻訳者協会が主催する講演の告知で、先日物権法をproperty lawsと英語に訳していたので、これでは財産法の訳になるので少し誤訳で、正しくはLaws of real rigthsとすべきじゃない?と意見をしたところ、いろいろ興味深い反論がありました。
さて、そもそも「ブッケン」の日本語自体ミスリーディングなところがありまして、漢字で書くと「物件」と、「物権」の2通りの意味があります。前者の「物件」は、不動産などの話題の時に頻繁に使われる用語で、特定の土地、建物などを指して、この物件は・・・などと用い、英語ではpropertyといってほぼ間違いありません。厳密にいうと、property(財産)には不動産と動産があり、real propertyとpersonal property、あるいはimmovable propertyとmovable propertyに分けることができますが、propertyだけで不動産の物件を指す用法も一般的です。
後者の「物権」は、民法で規定されている法律的な概念で、人に対する請求権である「債権」に対比して、物に対する直接的な、排他的な権利をいいます。この直接的、排他的な、というのが肝心なところです。というのは、債権は人に対する請求権でしかなくまた排他的でもない、というところと極めて大きな対比をなしているのですが、不動産・財産の権利には物権だけではなく、例えば土地、建物の借地権、借家権などのような債権も存在するからです。財産に関する法律(財産法)イコール物権法といえない所以です。
かくして、「ブッケン」といって同じ音で、似通ったものごとを扱う単語でありながら、違う意味を持つ「物件」と「物権」が共存することで英訳をややこしくします。物権法は、「物件法」ではなく「物権法」なのですが、一般的に普及している英語の訳例としては物件法あるいは財産法の訳とでもいうべきProperty lawsとなっているのです。
「物権」は民法で規定されている物に対する直接的、排他的な権利、と前述しましたが、日本の民法は明治維新後西洋の法律を土台にして作成されました。当初、フランスの学者が政府の委嘱を受けて草案を起こしたのですが、当時の日本の法律学者たちによく受け入れられず、結局ドイツの法律の影響を強く受けた法案に全面的に修正されたようです。
ところが、フランス法にしろ、ドイツ法にしろ、これらはいずれも(ヨーロッパ)大陸法であり、英語で書かれた法律となると主に英米法ということになります。大陸法は、英米法とは違う流れを汲んでおり、従ってドイツ法を起源とする日本語の物権は、一言で言うと英米法の英語には「ない」ということになりそうです。従って、日本語の「物権」を英語に翻訳するとなると、完全に一致する用語はないとなると、近い言葉をなんとか「翻案」する、ということになります。
そこで、結論としては、物権は英語ではreal rights又はrights in remと翻訳するのが正しいというのが翻訳者としての僕の考えです。なお、内閣府が関与する日本法令英訳プロジェクトの英語訳も、real rightsとなっているようです。
(ただし、英米法に物権という概念がないためか、英語の文書でreal rightsが使われている法律、その他「物権」の意味で使用されている用例はあまり見つかりません。)
比較法律論などを研究されている法律家の方の異論、説明があれば興味深くお聞きしたいと思う次第です。
ちなみに、上記物権と対応する(民法でいうところの)人に対する請求権である「債権」は、英語ではClaims又は、Rights in personamです。
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