新株予約権の英語
他人のふんどしですもうをとるという云いがあります。
アメリカなど巨大な市場を持つ会社、事業規模になると、経営者の手腕次第で数千億円の利益が生み出されたり、またへたをすれば赤字をだしたりするわけですから米国の大企業などでは優秀な社長、最高経営責任者(CEO)を獲得することは会社にとっては非常に重大な関心事になり、有能な経営者の争奪戦というのはかなり白熱してきます。優秀な社長を獲得するには年収何十億円という条件を積むということにもなってきます。それでも優秀な人材を確保するのに足りない場合は、報酬を払うための「他人のふんどし」はないか、というわけで、ストックオプションという手法が活用されることがあります。
ストックオプションとはつまり、株価の上昇、つまり投資家の金による株価の上昇を利用して経営幹部に報酬を与えるというスキームです。
日本でもこの手は最近とみに使用され、しばしば経営責任者、取締役その他要職にある従業員等に新株予約権が発行されます。新株予約権を代表取締役その他の取締役幹部に割当て(allot)し(多くの場合無償で)、新株の発行価格又は移転価格を低めに設定しておけば、この新株予約権の割当てを受けた代表取締役又は取締役幹部は新株予約権を行使することにより、時価と行使価格との差額分を報酬として得ることができます。このスキームのミソは、その役員等への報酬は会社が直接負担しなくてもいいところです。新株予約権を発行しなければ会社あるいは経営幹部にとって会社の株価という単なる評価益でしかなかった部分を株価が高騰した時に新株予約権を行使させる権利を役員等に付与することによりペーパーマニーを現金化し、経営幹部等の報酬として提供するというウルトラシーを可能にします。また、ストックオプションは、株価が上昇するほど行使価格と時価との差額が大きくなる、すなわち報酬額が高額になるので、会社の株価を上げるために仕事を頑張り、会社の利益を上げようとするインセンティブが働くという一石2鳥のメリットもあります。
新株予約権の英訳。share option、それともshare reservation right?
新株予約権はshare option (又は株式をアメリカ英語式にstockで表現すると、stock option)と英訳できます。新株予約権は会社法の改正前の同等のものは新株引受権と呼称され、英語でかつてshare subscription rightsとも翻訳されていました。それから言えば、新株予約権はshare reservation rightsといえるので、その表現でも構わないと思います。但し、日本法令英訳プロジェクトでは新株予約権をshare optionと訳出しているので、この会社法の英訳版が公表されてのちの新株予約権は、これに合わせて英語ではshare optionと訳すのが無難でしょう。日本法令英訳プロジェクトの英訳が全て正しいとは限りませんが、積極的に誤訳であると判断されない限り、法律用語についての英語はこれをよりどころにするのが正当です。新株予約権の翻訳
会社の登記簿の株式の事項の中で他に新株予約権付き社債、転換社債、ゼロクーポンなどがあります。
新株予約権付き社債、転換社債などは、上記の新株予約権の割当てが取締役などに対する報酬が主な目的であることが多いのに比べ、新株予約権付き社債、転換社債などは新株予約権、株式への転換のオプションなどは社債に付着したオマケで、主たる目的は会社の資金の調達であることが多いといえます。新株予約権付き社債は、Bond with share option、転換社債はConvertible bondで良いでしょう。社債はDebentureという表現もあります。
新株予約権= share option 下記の新株引受権との比較の上での表現として用いる場合、share reservation rightsもあり。
新株引受権= share subscription rights
新株予約権付き社債= Bond with share option、
転換社債= Convertible bond
翻訳のサムライ
永江俊一