担保物権の英語

投稿者: | 2016年6月10日

担保物権(抵当権、質権など)の英語、英訳

つい先日のブログで物権の英語の話をしましたが、物権には大きく分けて用益物権と担保物権に分けられます。このうち、担保物権については、民法上の物権としては、抵当権、質権、先取特権、留置権があり、その他特別法上の物権があります。物権は、いかような種類、内容のものも当事者の間で合意する限り約束できる債権とは異なり、法律で定めたものしか認められないのが原則です(物権法定主義)。ただし、温泉権、譲渡担保などの慣習法上の物権もこれに含まれます。

さて、この担保物権に対応する英語は、encumbrance, hypothec, mortgage, charge, security, collateral, lien, pledge, right of retentionなど、非常に多様です。抵当権、質権、先取特権、留置権はそれぞれ日本の民法に基づく権利なので、それを外国の法律に基づく担保権のうちのそれぞれの権利に完全に対応させることは本来的に不可能な部分もあります。先日のブログに書いたとおり、英米法には物権の概念自体が完全に対応していません。この条件がある中で、それぞれの担保物権(security)を英語に置き直すと、
抵当権は、mortgageが一般的です。hypothecも使用されることがあるようです。mortgageは本来的にはどちらかといえば譲渡担保(担保の目的で担保の対象物の所有権を担保権者に譲渡しておく担保物権のひとつで、慣習法上の担保物権)の意味に近いことが多いかもしれません。質権はpledgeがよいと思います。抵当権は、使用収益は所有権者に残したまま処分権を抵当権者に移すものなので不動産に向いており、不動産は主に抵当権が設定され、動産には質権が設定されることが多いです。これらはいずれも物権なので、譲渡その他抵当権設定者あるいは質権設定者の承諾を要せずに自由に処分できます。対抗要件(perfection)は登記(抵当権など)又は引渡(質権など)です。先取特権は法律の定める特殊の債券を有する者が債務者の総財産又は特定の財産から一般債権者に優先して弁済を受けることができる権利(法定担保物権)で、statutory lienというふうにstatutoryを追加すれば相応の英語になると思われます。では逆にlienの日本語は何と訳せばいいか、というと、英和辞書などでは先取特権と訳されていることが多いのですが、lienは必ずしも優先的に弁済を受ける権利が法律上当然に成立するものに限らないという点で日本の先取特権とは異なるので、リーエンとカタカナにしておくのがベストの解決法ではないかと思います。留置権は例えば自転車を修理した場合に修理代金を支払ってもらうまで自転車を留置しておけるという法律上当然に発生する権利ですが、right of retentionを当てます。
なお、根質権、根抵当権などの「根」はrevolvingが適当で、例えば根質権であれば、revolving pledgeで良いです。

担保物権=security
抵当権=mortgage
質権=pledge
先取特権=statutory lien
留置権=right of retention
根質権=revolving pledge

永江俊一